2017年に公開された劇場版『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』は、大阪と京都を舞台に、百人一首かるたをめぐる連続殺人事件と「恋」を描いたミステリーです。
小倉百人一首は現代でもプレイされるかるたの一種で、映画に登場する大岡紅葉(おおおかもみじ)は競技かるたのチャンピオンです。この映画を観れば、競技かるたのルールや遊び方についても学ぶことができます。
この記事では、映画のあらすじと物語の中に登場した百人一首の和歌の意味、百人一首の概要について紹介していきます。
名探偵コナン『から紅の恋歌(ラブレター)』のあらすじ
大阪のシンボル・日売テレビで、日本の百人一首界を牽引する「皐月会(さつきかい)」が開催する皐月杯の会見収録中に爆破事件が発生したことからストーリーが始まります。
崩落するビルの中に服部平次と幼なじみの遠山和葉が取り残されますが、コナンによって救出されます。
事件の混乱の中、コナンたちは平次のことを「未来の旦那さん」と呼ぶ大岡紅葉(おおおか もみじ)に出会います。彼女は競技かるたの高校生チャンピオンであり、平次と幼い頃に「ある約束」を交わしたと主張します。
ちょうど同じ時期、京都・嵐山の日本家屋で皐月杯の優勝者が殺害される事件が発生。現場の防犯カメラには紅葉の姿が映っていました。
和葉は平次をめぐり、紅葉と皐月杯の決勝で戦うことを約束します。事件を追うコナンと平次は、爆破と殺人の裏に、皐月会が隠し続けてきた「ある悲劇」と、百人一首の札に込められた哀しき想いがあることを突き止めます。
『名探偵コナン から紅の恋歌』で使われた百人一首
映画『名探偵コナン から紅の恋歌』では、登場人物たちの心情や事件の背景を象徴する札として、主に以下のような百人一首のかるたが重要な意味を持って使われています。
『ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは』
歌人は、在原業平(ありわらのなり)で、この歌の意味は以下の通りです。
「神代の昔でも聞いたことがない。竜田川が(紅葉で)鮮やかな「から紅」色に、水をくくり染め(絞り染め)にしているなんて。」
タイトル「から紅」の由来となった歌です。大岡紅葉の名前の由来でもあり、彼女の得意札として、平次への情熱的な恋心を象徴しています。
『しのぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで』
この歌人は平兼盛(たいらのかねもり)で、歌の意味は以下の通りです。
「 心に秘めてきたけれど、とうとう顔色に出てしまったようだ。私の恋は、「何か物思いでもしているのですか?」と人に尋ねられるほどになってしまった。」
これは遠山和葉の得意札であり、彼女の切ない恋心を象徴しており、劇中で重要な役割をもつ「キーソング」です。蘭が新一(コナン)に送ったメールにもこの歌が引用されています。
『恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか』
この歌の歌人は、壬生忠見(みぶのただみ)で歌の意味は以下の通りです。
「恋をしているという私の噂が、早くも立ってしまった。誰にも知られないように、密かに思い始めたばかりなのに。」
劇中では、上記の「しのぶれど~」の歌と対になる「忍ぶ恋」を詠んだ歌です。劇中では和葉と紅葉のライバル関係や、隠しきれない想いを際立たせる要素として描かれます。
『瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ』
この歌人は、崇徳院(すとくてんのう)で、意味は以下の通りです。
「川の流れが速く、岩にせき止められた急流が二つに分かれても、後にはまた一つに合流するように、今は離れ離れの私たちも、将来は必ず再会しようと思う。」
作中では、蘭が送った「しのぶれど」に対する新一からの返信にこの歌が引用されています。離れていても心は繋がっているというという、新一と蘭の絆を象徴しています。
コナンの映画で登場した百人一首に恋歌が多い理由は?
小倉百人一首に恋の歌が多い(100首中43首)主な理由は、選者である藤原定家(ふじわら のさだいえ)の選歌方針や、当時の文学的背景にあります。
選者・藤原定家の「叙情」重視
百人一首を選んだ鎌倉時代の歌人、藤原定家が叙情(じょじょう)や雅(みやび)を重んじたことが最大の理由とされています。
定家は、人間の心の機微や繊細な感情を表現する和歌を高く評価しました。
とくに喜びや悲しみ、切なさといった感情が最も色濃く表れるテーマが「恋」であり、彼が理想とした情緒豊かな世界観に合致していたのです。
平安貴族にとっての「恋」と「和歌」
当時の貴族社会において、和歌は単なる芸術ではなく、重要なコミュニケーション手段のひとつでした。
現代のように異性が直接会ってデートすることが難しかった時代、意中の相手に想いを伝える際に、和歌を贈ることが唯一の手段でした。
また五七五の短い俳句の中で、優れた恋の歌を詠めることは、貴族として高い教養とセンスがある証とされていました。
勅撰和歌集の伝統
百人一首の出典となっている『古今和歌集』などの勅撰和歌集(天皇の命で編纂された歌集)でも、恋歌は非常に大きな割合を占める伝統がありました。
例えば『後撰和歌集』では全20巻のうち6巻(約3割)が恋の歌に充てられており、古くから日本の詩歌において「恋」は四季と並ぶ最大のテーマでした。
時代を超えた普遍性
どのような時代も「人を恋う気持ち」は共通しており、人の心を最も動かす普遍的なテーマであることが、現在まで多くの人に親しまれる理由でもあります。
映画『名探偵コナン から紅の恋歌』で、和葉や紅葉、そして蘭と新一の想いが百人一首に重ねて描かれたのは、こうした「言葉にし辛い深い情愛」を伝えるための最適なツールだったのかもしれません。
まとめ
『名探偵コナン から紅の恋歌』では、百人一首の歌が事件の鍵であると同時に、登場人物の恋心や心情を象徴する重要なモチーフとして描かれています。
「しのぶれど」や「ちはやぶる」などの和歌は、タイトルにもなっている「から紅」や紅葉の恋心と深くリンクしています。
百人一首のそれぞれの和歌に含まれた意味や歌人の心情を知ることで、物語中の感情表現や演出意図がより立体的に理解できるかもしれません。一度、家族や友人同士でかるた遊びをすることをおすすめします。









